下関酒造の機械化
ローコストでうまい酒造りのために始めた、下関酒造の機械化。
職人技のイメージが強い日本酒造りの現場で機械を積極的に導入した理由は、社長の内田忠臣の経歴とも関係します。
社長の内田は、下関酒造に入る前は造船所に勤めていました。
世界トップクラスの日本国内の造船所はもとより世界を相手に競争する造船業界では、新しい技術が次々と生み出されました。
機械化は当たり前で、技術の革新がなければ、世界の競合に置いていかれます。
そんな造船業界から下関の造り酒屋に来た内田の目に、酒造りの現場はなんと原始的なんだろうと写ったのも仕方のない話でした。
人の力に頼って、作業を進めるだけでいっぱいいっぱいの現場。
無駄が多いとも感じていました。
大きな物を運ぶことを機械化すれば、時間も短縮できます。
温度管理も自動化できれば、蔵人がじっと蔵に張り付く必要もありません。
つまり、蔵人が知恵を絞る時間を生み出せ、人手も少なくてすみます。
こうして自動化をしても、今と同じ、いやそれ以上にうまい酒ができるのだとしたら、コストをかけてでも機械化すべきと思い立ちました。
結果、人件費を含めた生産コスト削減ができるのですから。
重労働だった蔵人にとっても、職場環境が良くなるわけですから。
もちろん、昔ながらの手作業の技術の継承は必要です。
無駄を省き、生産能力を高める
一方で、リーズナブルな日本酒をたくさんの人たちに提供していくためには、無駄を省き、生産能力を高めていかなければなりません。
内田は自らの経験上、機械化しなければ、下関酒造に先はないと考え、積極的に造船所で学んだ技術、思想を取り入れ、酒造りの機械を導入してきました。
結果、機械化によって効率良くなった現場で、蔵人に余裕が出て、自ら考える時間ができました。
新しい酒を開発するのに費やす時が確保できたのです。
今、下関酒造では、純米吟醸の「蔵人の自慢酒」が国内外の酒類競技会で最高の評価を受けるなど、酒のコンテストで優秀な成績を収める日本酒が続いています。
機械との共存を始めてから、むしろ、下関酒造の日本酒の評価は年々高まっているのです。